ワンちゃんとネコちゃんの乳腺のトラブル ―乳腺腫瘍―

【こんなことはありませんか?】
•お腹にしこりができた
•最近そのしこりが大きくなった気がする。しこりの数が増えた。
•なんとなく元気がない
上記の症状が複数回ある → すぐに受診してください。

【この記事のトピック】
•乳腺腫瘍は雌の犬猫(特に高齢)に多くみられる腫瘍性疾患です。
•ホルモンが関係することが知られており、未避妊または避妊が遅れてしまった犬猫での発生が多いとされています。
•特に猫の乳腺腫瘍は悪性が8割以上を占めるため、早期の腫瘍切除が推奨されます。

【乳腺腫瘍とは】
乳腺を構成する乳腺細胞が腫瘍化する病気です。犬と猫では特徴が異なりますが、どちらも悪性の場合には進行することでリンパ節、肺、腹腔内臓器などに転移します。良性であっても時間経過とともに悪性腫瘍へと転化することがあります。また早期の避妊手術によって乳腺腫瘍が発生する確率を下げることができます。犬も猫も未避妊雌は避妊雌の約7倍の発生率とされています。
(犬の乳腺腫瘍)
良性:悪性の比率はおおよそ1:1であり、悪性のうち転移を生じるものは半数程度とされています。そのため多くの症例では適切な治療により比較的良好な予後が期待できます。ただし前述したように良性であっても後に悪性転化する危険性があるため、長期間無治療で放置することは推奨されません。転移箇所はリンパ節(腋窩、鼠径)、肺、内外腸骨リンパ節、胸骨リンパ節、肝臓、骨などです。
初回発情前に避妊手術を実施することでその後の乳腺腫瘍の発生率が0.5%まで低下することが知られています。初回発情後で8%、2回目発情後で26%とされているので発生率低下には早期の避妊手術が効果的です。
(猫の乳腺腫瘍)
犬と違って85%以上が悪性です。皮膚や皮下織や腹壁に強い浸潤性を示し固着を認めることが多く、半数以上は複数の乳腺に存在しています。そのため犬よりもより積極的な治療介入が必要となります。転移箇所はリンパ節(腋窩、鼠径)、肺、胸腔内リンパ節、胸膜、肝臓、横隔膜、副腎、腎臓などです。
生後12か月以内に避妊手術を実施すると90%が未避妊雌と比較して発生率が有意に低下するとされています。

【診断の進め方(当院の場合)】
1.問診・身体検査(腫瘤の発生時期、拡大傾向の有無、個数と位置、避妊時期、既往歴など)
2.細胞診(そもそもしこりが乳腺腫瘍を疑うものかどうかの判断のため。お腹にできるしこりは他の腫瘍や非腫瘍の可能性もあります。)
3.血液検査
4.画像検査(レントゲン・超音波)
5.全身麻酔下での検査(CTによる原発巣および転移の評価)

【治療の選択肢】
・外科療法
基本的には外科手術が第一選択となります。選択すべき術式は動物種の違い、腫瘍の大きさや数、周囲組織への浸潤性などにより異なります。
犬の場合は主な方法として腫瘍のみの切除、罹患乳腺のみの切除、乳腺区域切除(第1,2,3あるいは第3,4,5)、片側あるいは両側乳腺切除が挙げられます。
猫の場合には犬と比較して腫瘍の浸潤性が強く、腫瘍が発生した乳腺のみを摘出する方法では高率に新たな病変ができてしまうため、転移の徴候が認められなければ腫瘍の大きさに関わらず片側あるいは両側乳腺切除が推奨されます。
・化学療法
犬については乳腺癌に対する化学療法の有効性は示されていません。
猫についても乳腺癌に対する化学療法は確立されていませんが、遠隔転移を起こした症例などでは化学療法との併用(あるいは化学療法単独)が行われる場合があります。

【よくある質問(FAQ)】
Q:早期に避妊手術をしても乳腺腫瘍が発生することはありますか?
A:はい。あくまでも発生確率を下げるのみであり、発生する可能性はゼロではありません。
Q:細胞診の検査をすれば悪性か良性かわかりますか?
A:予想がつく場合はありますが、診断はできないことも多いです。特に犬の乳腺腫瘍に関しては細胞診での良性悪性の判断は困難とされています。ただししこりが乳腺腫瘍であるのか、その他の腫瘍であるのか(肥満細胞腫など)、非腫瘍であるのか(炎症性病変など)を外科切除前に確認するのに細胞診は有用です。
Q:どのくらい生きられますか?
A:一概には言えませんが、犬ではリンパ節転移がある場合とそうでない場合の平均生存期間がそれぞれ8~17ヶ月、19~24ヶ月以上という報告があります。また腫瘍の大きさが5cm以上で未避妊の犬では術後2年生存率が低かったという報告もあります。猫では腫瘍が2cm未満で適切な手術がなされた場合の予後が比較的良好であるのに対し、3cmを超える場合には生存期間が4~6ヶ月という報告があります。早期発見は重要なポイントになります。