【このような症状はありませんか?】
膿胸の症状は、感染の程度や胸腔内にたまった膿の量によって異なります。
代表的な症状には、
・呼吸が速い
・呼吸が苦しそう
・お腹を大きく動かして呼吸する
・食欲が低下する、食べなくなる
・元気がなくなる
・発熱
・動きたがらない
・体重が減る
・咳をする
・胸を触られることを嫌がる
・うずくまった姿勢になる
などがあります。
初期には「少し元気がない」「食欲が落ちた」程度に見えることもあります。そのため、飼い主さんが呼吸の異常に気づいた時には、すでに病気が進行していることもあります。
特に注意したいのが呼吸状態の変化です。胸腔内に大量の膿がたまると肺が圧迫され、十分な酸素を取り込めなくなります。呼吸が速い、浅い、苦しそう、お腹を使って呼吸している、口を開けて呼吸しているといった状態が見られた場合は、緊急性が高いため、すぐに動物病院を受診してください。
診断では、身体検査に加えて胸部レントゲン検査や超音波検査などを行い、胸水の存在や肺・胸腔内の状態を確認します。また、胸腔内にたまった液体を採取して、細胞検査や細菌培養検査を行うことで、膿胸であることや原因となる細菌を調べます。
【原因】
膿胸(のうきょう)とは、肺を包んでいる胸膜の周囲、つまり胸腔内に細菌感染による膿がたまる病気です。医学的には「胸腔内膿瘍」や「pyothorax」と呼ばれ、感染によって生じた膿性の液体が胸腔内に蓄積することで、肺が十分に膨らめなくなります。
猫の膿胸では、原因となる細菌が複数種類関与していることも少なくありません。口腔内や気道に存在する細菌が、何らかのきっかけで胸腔内に入り込むことで発症するケースがあります。
主な原因として、以下のようなものが考えられます。
・肺炎などの感染症が胸腔内へ波及する
・咬傷や外傷などによって胸部から細菌が侵入する
・異物などが気道や食道から胸腔内へ移動する
・血液を介して感染が広がる
・肺や胸腔内の病変が感染源となる
・原因を特定できない場合(特発性)
特に猫では、外に出る機会がある場合、他の猫とのケンカによる咬傷などがきっかけになる可能性があります。一方で、明らかな外傷歴がなく、詳しい検査を行っても感染経路を特定できない症例もあります。
膿胸は単に「胸に水がたまっている」状態とは異なり、細菌感染を伴った緊急性の高い病気です。感染性の胸水が増えると肺が圧迫され、呼吸状態が急速に悪化することがあります。

検査と治療のために抜去した胸水。大量のブツが沈殿する。ブツの成分は変性・壊死した好中球、フィブリン、壊死組織、細菌塊、蛋白成分と思われる。下水道の臭いに近い腐敗臭が鼻を衝く。
【治療】
膿胸の治療では、「感染を抑えること」と「胸腔内にたまった膿をできるだけ排出すること」が重要です。
1.抗菌薬による治療
細菌感染が原因となるため、抗菌薬を使用します。
可能であれば胸水を採取して細菌培養検査や薬剤感受性検査を行い、原因菌に適した抗菌薬を選択します。検査結果が出るまでの間は、複数の細菌をカバーできる抗菌薬を開始することがあります。

細菌培養検査にて、2種類の歯周病菌が検出されました
2.胸腔ドレナージ
胸腔内にたまった膿を体外へ排出するため、胸腔内にチューブ(胸腔ドレーン)を設置する治療が行われることがあります。
胸腔ドレーンを使用することで、繰り返し膿を排出できるだけでなく、必要に応じて胸腔内を洗浄することもできます。
膿胸では、抗菌薬だけでなく、感染源となっている膿を物理的に排出することが重要です。研究では、小口径の胸腔ドレーンを使用した治療でも良好な治療成績が報告されています。

当院にて胸腔ドレーンを設置し膿の抜去をしている様子
3.点滴・酸素療法などの支持療法
重症例では、脱水や循環状態の悪化に対して点滴を行ったり、呼吸状態に応じて酸素療法を行ったりします。
食欲が低下している期間が長い猫では、栄養状態の維持も重要です。状態によっては入院下で集中的な管理を行います。当院でも経鼻食道カテーテルを設置して一日4回のチューブフィーディングを実施しました。
4.外科手術
抗菌薬や胸腔ドレナージなどの内科的治療を行っても改善が乏しい場合や、胸腔内に異物・腫瘤などの明らかな感染源が存在する場合には、外科的な治療が検討されることがあります。
どの治療方法を選択するかは、猫の全身状態、胸腔内の感染の程度、画像検査の結果、感染源の有無などを総合的に判断して決定します。
膿胸は命に関わる病気ですが、早期に診断し、適切な排液と抗菌薬治療を行うことで回復が期待できる病気でもあります。
【予後】
膿胸は重症化すると命に関わるため、発症時には慎重な治療と経過観察が必要です。特に治療開始直後は状態が急変する可能性があり、入院管理が必要となるケースもあります。
一方で、適切な治療によって感染をコントロールできれば、良好な経過をたどる猫も少なくありません。報告によって生存率には幅がありますが、胸腔ドレナージと抗菌薬を組み合わせた治療では良好な長期成績も報告されています。ある研究では、退院後1年の生存率が94%(32頭中30頭)でした。
予後を左右する要因としては、
・来院時の全身状態
・呼吸状態
・感染の程度
・敗血症などの合併症の有無
・原因となる病変や異物の有無
・治療に対する反応
・栄養状態
などが挙げられます。
治療によって症状が改善した後も、すぐに自己判断で薬を中止するのではなく、獣医師の指示に従って治療を継続することが大切です。再発がないかを確認するため、胸部画像検査や血液検査などによる経過観察を行うこともあります。
呼吸が苦しそう、食べない、元気がないといった症状を「少し様子を見よう」と長引かせないことが、早期診断・早期治療につながります。
【飼い主さんからよくある質問(FAQ)】
Q1.猫の膿胸はどんな病気ですか?
胸の中(胸腔)に細菌感染による膿がたまる病気です。膿が増えると肺が圧迫され、呼吸が苦しくなるため、緊急治療が必要になることがあります。
Q2.膿胸になる原因は何ですか?
肺炎などの感染が広がったり、ケンカによる咬傷などから細菌が入り込んだりすることがあります。また、異物や胸腔内の病変が感染源になる場合もあります。詳しく調べても原因を特定できないケースもあります。
Q3.膿胸は猫から猫へうつりますか?
膿胸そのものが、他の猫へ直接うつる病気というわけではありません。ただし、原因となった感染症によっては他の猫への感染リスクを考慮する必要があります。感染症が疑われる場合は、獣医師に相談してください。
Q4.どんな症状が出たら病院へ行くべきですか?
呼吸が速い、苦しそう、お腹を使って呼吸している、口を開けて呼吸しているなどの呼吸異常が見られた場合は、緊急性があります。また、食欲低下や元気消失が続く場合も、早めの受診をおすすめします。
Q5.胸にたまった膿は薬だけで治りますか?
抗菌薬は重要ですが、膿が大量にたまっている場合には、薬だけでは十分な治療ができないことがあります。胸腔穿刺や胸腔ドレーンによって膿を排出する治療を組み合わせることが一般的です。
Q6.胸腔ドレーンを入れるのは危険ではありませんか?
胸腔ドレーンの設置には一定のリスクがありますが、膿胸では胸腔内の膿を継続的に排出するために重要な治療法となります。猫の状態や胸水の量などを考慮して、適切な方法を選択します。
Q7.入院は必要ですか?
呼吸状態が悪い場合や、胸腔ドレーンによる排液、点滴、酸素療法などが必要な場合には入院治療が推奨されます。重症度によって必要な入院期間は異なります。
Q8.膿胸は治りますか?
適切な治療によって回復できる猫は多くいます。ただし、重症例では命に関わることもあります。治療への反応や原因となる病変の有無などによって予後は異なります。
Q9.治ったあとに再発することはありますか?
原因となった感染や病変を十分にコントロールできれば再発を防げる可能性があります。一方で、感染源が残っている場合などには再発する可能性があります。治療後も獣医師の指示に従い、必要な検査を受けることが大切です。
Q10.自宅では何に注意すればよいですか?
呼吸状態、食欲、元気、体重などを毎日確認してください。特に呼吸が再び速くなったり苦しそうになったりした場合、食事がとれなくなった場合、元気が急に低下した場合は、早めに動物病院へ相談してください。








