犬猫の歯のトラブル―歯周病―

【こんなことはありませんか?】
• 歯茎の赤み(犬猫)、口臭(犬猫)、食べにくそうにする(猫)。
• 歯石の付着(犬猫)、歯のぐらつき(犬猫)、よだれ及び前足で口を気にする(猫)。
• 歯が抜ける(犬猫)、頬から膿が出る(犬)、鼻血(犬)食欲低下(猫)、口を開けたがらない(猫)。
上記の症状が複数回ある → すぐに受診してください。

【この記事のトピック】
• 歯周病は多くの犬猫が罹患する代表的な疾患です。
• 進行すると、口腔内に収まらず全身に影響を及ぼすことがあります。
• 治療の中心は全身麻酔下での歯垢(プラーク)や歯石の除去です。
• 予防のためには、毎日の歯磨きがとても重要です。

【歯周病とは?】
歯周病とは、歯の周囲(歯肉・歯根膜・歯槽骨)に炎症が起こり、最終的に歯を支える組織が壊れる疾患です。
進行すると歯が抜けるだけではなく、細菌が血流に乗って心臓、腎臓、肝臓など、全身に悪影響を与えることもあります。

【歯周病の原因】
主に歯垢(プラーク)と歯石です。

・歯垢(プラーク):細菌とその代謝物で形成されています。数日で歯石に変化します。歯肉の奥のプラークはバイオフィルムを形成するため、抗生物質の効果を減弱させます。
・歯石:ほとんどがリン酸カルシウム塩で形成されています。歯石の沈着には核となる物質として細菌やその死菌が必要です。

【犬特有の要因】
・小型犬は歯が密集しているので歯垢が溜まりやすいです。
・ウェットフード中心の食生活。ドライフードは限定的ですが歯垢を削ってくれます。
・加齢による歯周病の増加。

【猫特有の要因】
・歯肉口内炎や破骨性吸収病巣(アンキローシス)を併発しやすいです。
・免疫異常やウィルス(カリシウイルス、FIV等)が関与していることがあります。
・犬よりも痛みに敏感で、症状が出にくいです(食欲低下で気付くことが多い)。
・痛みを隠す動物なので、気付いた時には重症化していることも多いです。

【診断の進め方(当院での場合)】
1.問診:元気や食欲等の一般状態のほかに食餌の摂取の際に異常はないか、痛みや食べづらさはないか、あるとすればいつ頃からみられるようになったかを伺います。

2.身体検査
①視診:歯肉の減少や口内炎や歯肉炎の有無、歯垢や歯石の有無、歯の破折の有無、口腔内の新生物の有無などを確かめます。
②触診:歯のぐらつきがないか、頬に腫れがないかを確かめます。顎の下のリンパ節が腫れていないかも確認します。

3.血液検査。
 一般血液検査を行い、白血球や炎症マーカー(CRP)の上昇の有無、胆肝系や腎臓の数値の異常の有無を確認します。

4.全身麻酔下での検査
 CTスキャンによるによる歯根、歯槽骨の評価(武蔵国どうぶつ医療センターにて)をします。プロ―ピングによるPPD(Probing Pocket Depth)、アタッチメントレベル、出血の有無の評価をします。歯科用レントゲン照射器による歯根や歯槽骨の評価。

【治療の選択肢】
1.スケーリング(歯石除去)
 全身麻酔下で超音波機器を使用して歯面上の歯垢、歯石等を除去します。
 歯肉縁下の歯垢や歯石を取り、細菌増殖を抑える環境にします。
 細菌数を減らすことにより、過剰な免疫応答を下げます。
 歯肉の歯面への再付着を促します(上皮性付着、結合組織性付着)。
 

歯石除去前

歯石除去後

歯石除去前

歯石除去後

2.ルートプレーニング
スケーリング後にキュレットを用いて歯肉縁下の汚染物を除去します。
歯周ポケット内の炎症性組織を除去し、歯肉の歯面への上皮性付着を促進します。
 
3.抗生物質、消炎鎮痛薬
 特に猫は痛み止めや消炎剤を抗生物質と併用することもあります。月1回の猫用抗モノクローナル抗体製剤を、猫の歯科疾患の鎮痛のために使っています。

4.抜歯
 重度の歯周炎で考慮します。猫の場合、歯肉口内炎や破骨性吸収病巣(アンキローシス)などで多数の抜歯も検討します。
 
【予防法】
1.歯みがき(最重要)
 週3回以上。犬猫専用の歯ブラシや酵素入りの歯みがきペーストを使用します。特に歯垢、歯石の付きやすい犬歯、後臼歯の頬側を中心に行います。

2.デンタルケア製品
 デンタルガム、デンタルおやつ、デンタルウォーター、サプリメント。

3.食事管理
 ドライフードは歯垢が付きにくいです。
 歯垢をこすり取る機能をもつドライフードは、当院にて取り扱っております。。

4.定期健診
 年1~2回、病院での口腔内チェック。ワクチン接種やフィラリア予防での来院時にご相談を承っております。

【よくある質問FAQ】
Q 歯石は家で取れますか?
A 取れません。動物病院での麻酔下処置が必要です。
歯石は非常に硬く、家庭用のケアでは削れません。ハンドスケーラーを家庭で使う場合、以下のリスクがあるため危険です。
・歯肉を傷つける。
・歯の表面をざらざらにして、逆に歯石が付きやすくなる。
・無麻酔の犬猫では、歯石が喉に入る危険性。
家庭でできるのは歯垢(プラーク)を減らす歯磨きのみです。

Q 歯石除去は無麻酔でできますか?
A 非本的に推奨されません。
・犬猫が動くため危険。
・歯の表面しか取れず、歯肉縁下(歯肉ポケット内)の歯石は必ず残る。
・残った歯石が細菌の温床となり、短期間で悪化。
・痛みや恐怖を与えることもある。
・想定外の出血をした場合、止血が困難。
正確安全な歯科処置は、全身麻酔下で行う歯石除去が標準です。

Q 歯周病は治りますか?
A 初期症状(歯肉炎)の場合は治ります。進行した歯周炎は元には戻りません。
・歯肉炎は歯磨きや歯石除去で改善可能。
・歯周炎(歯槽骨や歯根が溶けている状態)は進行を止めたり痛みを緩和することはできるが、失った骨は元には戻らない。
・温存が難しい歯は抜歯が必要。

Q 歯石はどのくらいの期間でつきますか?
A 歯垢は2~3日で歯石になります。だからこそ毎日の歯磨きが最も効果的です。

Q 歯石除去はどれくらいの頻度で必要?
A 年1回が目安です。
・小型犬 年1回
・大型犬 2~3年に1回
・猫 口腔疾患の状況によりますが、1年に1回の検診がお勧めです。

Q 動物が嫌がって歯磨きができない場合はどうすればいいですか?
A 上記【予防法】2のデンタルケアを組み合わせて使用します。ただしこれらは歯磨きの代わりにはなりません。

Q 歯周病を放置するとどうなりますか?
A 以下の重大なリスクがあります。
・痛みで食事ができなくなる。
・歯が自然に抜ける。
・頬や顎に膿が溜まる。
・鼻に抜けて鼻血が出る(口腔鼻腔瘻)
・口腔内の細菌が血流に入り、心臓・腎臓に影響を及ぼす。
特に高齢の犬猫では、歯周病は全身の病気を悪化させる要因になります。